フィンランドの老舗テキスタイルブランド
「フィンレイソン」の気持ちいい働き方

200年近い長い歴史を持つ「フィンレイソン」。フィンランドのどの家庭でも愛用されていると言われ、フィンランドを代表するテキスタイルブランドです。2016年版に引き続き、2017年版でもコラボレーションしているそのフィンレイソンのオフィスを訪ねました。

それは、首都ヘルシンキに今冬初めての雪がちょっぴり積もった11月初旬のある日のこと。デザインチームをはじめあらゆるセクションのスタッフたち約50名がデスクを並べて働くメインオフィスと併設ショールームを案内してくれたのは、フィンレイソンのメインデザイナーのひとり、アヌ・カネルヴォ(Anu Kanervo)さんです。

TEXT : こばやしあやな PHOTO : 安井草平

元巨大倉庫が
自然光でいっぱいの清々しいオフィスに

ヘルシンキ都心部の西端、ルオホラハティ地区の海岸線上に建つ、やや無骨なレンガ造りの建物群。これらはかつて飲料工場や巨大倉庫として使われていたそうで、その旧工場地の一角に、現在のフィンレイソンのメインオフィスがあります。フィンレイソンは、1820年にフィンランド中南部の工業都市タンペレに根を張り、長らく華やかな歴史を築いてきましたが、21世紀に入ってついに本社を首都圏に移し、2014年から現在のオフィスを拠点とするようになりました。

建物の中に足を踏み入れまず目に飛び込んでくるのは、高い吹き抜けのガラス天井に、海の見える大きな窓。双方から自然光が贅沢に差し込み、白壁の空間全体にあたたかく拡散されています。メインドアのすぐ先に続く、開放的で、何もなければ徒競走でもできてしまいそうなくらい奥行ある空間内では、主にセールス部門のスタッフたちが仕切りもなくデスクをつき合わせ、とてもオープンな雰囲気で業務に没頭しています。私たち取材スタッフがそばを通りかかるときには、みなさんが必ず笑顔で挨拶してくれ、打ち合わせさえも真剣ながら和やかな雰囲気で、なんとも気持ちよく清々しい社風をさっそく垣間見ました。

写真 : ディスプレイ方法にも工夫が利いた、歩いて回るのが楽しいショールーム

写真上 : 海側に面しているショールームの窓からは、美しい水辺の風景やその先の島が見えている / 左下 : 天井から自然光を取り入れるオフィスでは、直射光避けとしても機能する黒いパラソルが、インテリアのユニークなアクセントに / 右下 : オフィスの壁には、フィンランド人が自宅でよくそうするように、スタッフの子ども時代の写真が飾ってある

3つのキーワード:
エキサイティング、スタイリッシュ、キュート

デザイナーや商品開発者などのクリエイターたちが作業をするのは、さらにその奥にある広々としたスペース。高さのある白壁を活かして、これまでのテキスタイル作品から次年度の案までがずらりと貼られており、よく見ると3つのキーワードに分類されていることがわかります。

アヌさんの説明によるとこの3つの分類は、「フィンレイソンでは、3つのイメージカテゴリーを意識したテキスタイルパターンを満遍なく生み出しています。1つめは、『Jännä / ヤンナ(エキサイティング、ドキドキするような)』。動物やキャラクター、日常で目にする思いがけないオブジェクトなどがモチーフになる、 楽しくてはつらつとした、あるいは意表を突くパターンです。2つめが、『Tyylikäs / トゥーリカス(スタイリッシュ)』。北欧デザインの一般的なイメージをつくりあげている、シンプルな幾何学模様の美しさやおもしろさを追求するパターンですね。そして最後が、『Ihana / イハナ(かわいい、キュートな、きれいな)』です」ということだそう。

「この“イハナ”は、フィンランド人の女の子が心ときめくものや人に対してよく口にする言葉なのですが、フィンレイソンでは花や植物モチーフが、必ずこのカテゴリーに入ります。自然を愛するフィンランド人にとって、草花のモチーフというのは今も昔も絶対に欠かせず、常に新しいパターンを生み出し続けていく使命があるからです」

テイストやモチーフのバラエティが豊かなフィンレイソンの生地は、実はこうしたキーワードのもとでバランスよくつくられていたんですね。

写真 : アヌさんが手がけた草花を描いた作品、「Niittypolku / ニッティポルク(草原の小道)」 (2014)。アヌさんは、いつもまず手描きでアイデアスケッチをおこなってそれをパソコンに取り込み、デザインに落とし込んでいく

チームワークを大切にした
自由でフレキシブルな働き方

フィンレイソンでは一人ひとりの作業デスクに、それぞれの体型や気分、スタイルに合わせて高さが自在に調節できる電動昇降デスクが導入されています。勤務時間については、基本的にデザイナーはフレックス制で、雑務や共同作業以外は、各人がインスピレーションの得やすい場所や時間を使って、自由に働くことが許されているのだそう。

アヌさんの場合は、8時出社、16〜17時が退社時間で、土日は休養と家族サービス、というサラリーマン型サイクルが肌に合っているとのこと。そして、ランチは必ずデザイナーチームの同僚たち全員でいっしょに出かけます。けれど、落ち着いた静かな場所でじっくりアイデアを練りたければ自宅にこもるときもあるし、自然をスケッチをしに外に出ることも。また自宅では、デザイン業界には無縁の世界に生きるご主人にも毎回アイデアスケッチを見せて、客観的なアドバイスをもらうようにしているそうです。

「パターンデザインのディテールを詰めたり、配色などを考える際には、クリエイティブ・ディレクターのペトリ・ポソネン氏とデザインチームみんなでテーブルを囲み、納得が行くまで率直な意見を出し合います。特に配色と生地の選定は、妥協せず何度もテストプリントを行ない、現物を手にとって慎重に決めていきます」。

写真:まずは個々のデザイナーがモチーフを決めてパターンの素案を出し、その後デザインチームでディテールや配色を検討していく

写真 : アヌさんが手がけたテキスタイル 左 : 「Kubis /クビス(キャベツ)」(2012)、右 : 「Penger + Rinne / ペンゲル +リンネ(堤防 +スロープ)」(2010)

歴史あるブランドへの
誇りと愛

「今日のフィンランドの多くのテキスタイルブランドは、フリーランスデザイナーたちにデザインを任せています。けれどフィンレイソンでは、戦後に社内でパターンデザイナー部門が生まれてから今日まで、専属デザイナーたちが中心となり、毎日同じメンバーで顔を合わせて作業に取り組んでいます。だからとても頼もしいチームワークに支えられながら自分の仕事ができるし、職場環境から設備に至るまで、社員の働きやすさがすごく重視されている会社なので、居心地もよく安心感があります。そして社員だからこそ、デザイナーたちもフィンレイソンという歴史あるブランドへの誇りや愛が強く、その歴史を受け継いで繋げていこうという希望に満ちているんです。」と、アヌさんは誇らしげに語ってくれました。

写真 : アヌさんと、チームワークが自慢のデザインチームの仲間たち

そんなアヌさん自身は、まだ美大在学中だった2005年に、先輩デザイナーの産休中にインターン生としてフィンレイソンのアトリエで働き始めたことが運命の鍵に。とにかくいろんなデザイン案を描いては提案し続けた3ヶ月のジョブトレーニング後に、大学を卒業したら正社員として働かないかと声がかかったのだそうです。デザイン分野に限らず、インターン中の努力や実績が買われて、そのままその会社の社員に登用され就職が決まる……というのは、フィンランドのビジネス社会でもよくあること。

フィンレイソンには日々たくさんの就職志願者のポートフォリオが送られてくるそうですが、アヌさんは、こうして自分の現場での働きぶりをしっかり見て、採用を決めてくれた会社にはやはり特別な縁があったのだと信じて感謝し、そのときの喜びを今も忘れないように心に留めて日々の仕事に向き合っているそうです。

EDiT×フィンレイソン

2017年のフィンレイソンのカバーは、リンゴ、ゾウ、パンダの3柄。こちらのリンゴ柄はフィンレイソンに1950年代から関わり、長く活躍したデザイナー、アイニ・ヴァーリの1972年の作品「OMPPU(オンップ)」をリニューアルしたデザイン。“オンップ”というのはフィンランド語のリンゴの愛称だそう。よく見ると、虫の姿や、虫がかじった跡が描かれています。ラミネート加工されたラウンドジップカバータイプのEDiT1日1ページ手帳のカバーは、大胆な配置が北欧らしさを漂わせています。

2017年に建国100年を迎えるフィンランド。それを記念したフィンレイソンの新作コレクションの話など、アヌさんのインタビューの続きはこちらから