フィンランド独立以前から続く
フィンレイソンの歴史

フィンランド、ヘルシンキにあるオフィスの様子やワークスタイルをご案内いただいた前回に続き、200年近い歴史を持つフィンレイソンにとって、2017年に迎えるフィンランドの独立100周年がどういう意味を持つのか、そして、ショールームで一足早く展示されていた新作コレクションについて、フィンレイソンのデザイナー、アヌ・カネルヴォ(Anu Kanervo)さんにお話しいただきました。

TEXT : こばやしあやな PHOTO : 安井草平

2017年、建国100年を迎えるフィンランド

フィンレイソンという歴史あるテキスタイル・ブランドを生み育てた国フィンランドは、来年2017年に、独立100周年を迎えます。国家ができて、まだたったの100年 !? と驚く人もいるでしょう。もちろん、フィンランド人という民族やフィンランド語は、それ以前からこの地に存在はしていましたが、国自体は、長らく隣国のスウェーデンとロシアに統治され続けていました。

「1820年創業のフィンレイソンも、フィンランド全土が、スウェーデンの統治下からロシアの統治下へと移ったすぐ後に生まれた企業です。社名の頭に“Fin”が付いていますが、これはフィンランドという国名のアピールではなく、創業者のスコットランド人、ジェームズ・フィンレイソン氏の名字から来ているんです」。

100周年を記念して生まれたテキスタイル

フィンレイソン氏の尽力によってフィンランド中南部の都市タンペレの川のほとりに紡績工場が築かれると、企業は短期間に急成長を遂げていきました。1850年代にはすでに北欧最大の紡績会社へ。そして国内各地で独立運動がヒートアップする1900年初頭に迎えた最盛期には、3300名もの労働者を雇用し、なんと工場敷地内に社宅や学校、病院、教会までを運営する、国内屈指の大企業として名を馳せたのでした。当時の附属病院の病室では、布団にももちろん、フィンレイソンでデザイン・製造された布が使われていたそうです。

写真:当時フィンレイソン病院でフィンレイソンのテキスタイルが使われていた貴重な記録写真

そして、当時のテキスタイルデザインに着想を得てつくられたという最新パターンが、“お祝い”の意味をもつ「Kestit / ケスキット」。この“お祝い”というのは、もちろん2017年の独立100周年のこと。フィンレイソンの古いアーカイブにこのオリジナルパターンを見つけたデザイナーのサミ・ブッリが、祖国と企業の歴史の重み、発展に尽くしてきた人々の努力の重みを讃えてデザインを手がけました。

また同じく独立100周年の記念パターンとして発表されたのが、「Pinkka・Punkka(ピンッカ・プンッカ)」というデザイン。元になっているのは、一見何の変哲もないブルーのギンガムチェックですが、この模様を見ると、兵役に服したことのあるフィンランド人は訓練時代の思い出が蘇ってくるのだそう(フィンランドでは、現在でも18歳以上の男性および女性志願者に兵役が課されています)。

というのも、「ピンッカ・プンッカ」は、兵役の寄宿舎のベッドカバーを日々たたんだり被せたりする、れっきとした訓練行為をさす言葉。たとえば就寝前に、チェック模様の白地と青字のラインが横から見てもずれていないくらい丁寧に布を折りたたみ、ベッドの横に置いてある椅子の座面サイズきっちりに合わせて置く習慣を徹底しないと、すぐ監視員にやり直しを命じられて、いつまでも寝させてもらえないそう……!

「だからこの柄は、フィンランド人の昔ながらの几帳面さ、粘り強さの象徴として、今回の記念パターンのアイデアソースに採択されたんです」。

“兵役”と聞くと日本人にとっては、厳しい、辛いといったシリアスなイメージがありますが、フィンランド人にとっては、いい意味で心身鍛錬の期間でもあり、「なんでこんなことを……」と思いながらも、ピンッカ・プンッカの作業に毎日必死になっていた姿が、後年、体験者共通の笑えるトラウマ(?)になるそうです。なので、フィンランド人はこの柄をみると思わずクスリと笑いたくなる感覚があるようなのです。

伝統あるアイテムをフィンレイソン流に

オフィスに併設された、窓から青い海の見える素敵なショールームには、これらの記念パターンをはじめ、今後発売される予定の新作パターンや商品がずらりと展示されていました。

その中で目を引いた異色のアイテムが、フィンランドのどの家庭でも必ず目にする、昔ながらの「裂き編みマット」。家庭で不要になったシーツやシャツなどの布を短冊状に引き裂いて織り機で編み込んでいく、素朴で伝統的なラグマットです。フィンレイソンの布地をベースに裂き編みして製品化したこのラグマットが、今フィンランド国内でとても注目され、売れ続けているのだそう。

アヌさんは、「私たちが幼いころから当たり前のように目にしてきたラグマットが、こんなかたちで今の人々に受け入れられるなんて、正直言って少し予想外でした。都会に住む現代人たちはさすがに自分でこれをつくる機械も技術もないけれど、きっとタイムレスな伝統工芸の良さに気づいて、住居空間に置いておきたくなるのでしょうね」と、今回のラグマットブームを分析していました。

来年は新鮮なインスピレーションを

最後に、アヌさんご自身の、2017年の豊富と夢、そして、フィンレイソンのEDiT手帳を使ってくださる日本の皆さんへのメッセージを語ってもらいました。

「2017年は、まだ見たことのない新しいものを見て、新鮮なインスピレーションを受けられるような旅に出る時間をつくりたいですね。そしてその体験が、さらに次のデザインとして活きればいいなと思っています。私たちフィンレイソンのスタッフは、フィンランドでデザインされたパターンが、マークスとのパートナーシップによって、日本人の技術や感性で新しい商品となって使われることをとてもうれしく、誇りに思っています。ラウンドジッパー型でポーチのようになっているがとても素敵ですね。ぜひ1年間、大切に使い続けてください」。

黄色のゾウと水色のジッパーのコントラストある色づかいが北欧らしさを感じさせる「ELEFANTTI(エレファンティ)」。1969年、デザイナーのライナ・コケラがヘルシンキの芸術デザイン大学在学中に、フィンレイソンと大学が主催したコンペで発表したデザインです。彼女が幼い頃の家族写真を見ていたときに、兄弟が持っていた大きなゾウの素朴な手づくりのオモチャが目に留まったことから生まれた柄が、50年近い時を経て、今も愛され続けています。

フィンレイソンのオフィスやショールームの様子、ワークスタイルなどについてアヌさんが語ってくれたインタビューの前半はこちらから