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インタビュー

スタイリッシュなデザインの
エシカルファッションを提案

やわらかくてナチュラルなイメージが先行しがちな、エシカルファッション。そんな中でも「INHEELS(インヒールズ)」は、クールでスタイリッシュなスタイルを発信し続けているブランドです。2016年9月には東京・下北沢に実店舗をオープン。代表を務め、ブランディングを担当する岡田有加さんにお話を伺いました。
TEXT:阿部康子 PHOTO:高見知香

直感で向かったロンドンがきっかけに

「Who said ETHICAL is not SEXY?」。ブランドを始める前から心にあたためていたのが、この言葉でした。エシカルは、「倫理的、道徳的」という意味を持ちます。労働条件に配慮したフェアトレードや、オーガニックコットンを使うといった、生産者や産地に良識的であることが前提のエシカルファッションに、岡田さんはもともと興味を持っていたそう。

「“かっこよくてセクシー”という視点が、日本のエシカルファッションには完全に抜け落ちてるなとある日気づいて。そこをビジネスにしたら、おもしろいんじゃないかなと思ったんです」。そこで思い浮かんだのが「エシカルがセクシーじゃないなんて、誰が言ったの?」という言葉。

その言葉とともに、「ソーシャルビジネスをやりたい」という思いを抱きながらも、現在とはまったく違う仕事をしていた岡田さん。ロンドンに行けば何か方法が見つかるかもしれない!と、会社を辞めて単身イギリス・ロンドンへ旅立ちます。

しかし、現地で会う予定だった友人に会えず、泊まる場所に困りはてて思い出したのが、後に共同代表として共に起業した大山さんでした。「突然彼女に連絡を取り、事情を伝えて泊まらせてもらって。いろいろな話をするうち、エシカルファッションブランドをやりたいんだと言ったら、『私もちょうど同じようなことを考えていた』と意気投合しました」。

ハプニングで生まれた再会からすぐに、素材選びやコンセプトづくりといった準備を少しずつ進めた二人。その後、2012年に岡田さんが日本に帰国したタイミングで「INHEELS」をスタートさせました。

写真 : ロンドン時代に読んだファッションやエシカルに関する本も並ぶ店内の一角。「日本で訳されていないおもしろい本が、まだまだあるんですよ」。

ヒールを履いた、かっこいい女性のための服

「環境にやさしい素材でつくるというイメージからか、赤ちゃんにも安心な、ほっこりとしたファッションという印象を抱く人が多いエシカルですが、実は素材選びや生産・販売方法に配慮すれば、デザインやブランディングは好きなようにやってもいいんですよね。テイストにルールはないんです」。

「インヒールズ」という言葉は、英語で「ヒールを履いて」という意味。「クールでかっこいい女性がヒールを履いてカツカツと歩くような、スタイリッシュなイメージをブランド名に込めました」。

写真 : 下北沢の店舗は、岡田さん自らも参加して壁をペイントするなど、こだわりが詰まった場所。ロゴのペイントも自身で手がけたもの。

さらに、「素材やつくりにこだわりすぎて、高価になって誰も買えなくなってしまったら、循環しないしつくる意味がない。購入しやすい価格であることも大切にしています」と語ります。

写真 : 2016年の秋冬のテーマは、“やさしく静かにささやいて”という意味を持つ「スピーク ロー」。「この5〜6年全面に押し出していた“エシカルファッション”を、今度は丁寧にそっと伝えていくイメージです」。

岡田さんが一時期滞在していたイギリスは、エシカル先進国。現地でファッションを学ぶ中、日本との意識の差を肌で感じていたと言います。

「何が持続可能なのかということを社会が常に意識しています。どれだけ飽きずに着られるか、物理的な面と感情的な面でどれだけ長持ちできるのかとか。ブランドひとつではなく、自分のワードローブがどれだけ環境負荷をかけないか、生活全体で考えているんです」。

それに比べて日本のエシカルファッションへの姿勢は、フェアトレード、オーガニックコットン、リサイクル、復興支援とキーワードを当てはめていくような感じがするそう。「素材選びや生産・販売から廃棄まで、洋服の一生のことを考えて取り組む姿勢は日本ではまだまだこれから、という感触です」。

一方で、岡田さんは「ストイックにエシカルを求めすぎても、着る人が疲れてしまう」と話します。フェアトレードか、素材はオーガニックコットンか、自分が着ている服やアイテムは社会貢献となっているのか……。

「社会の役に立つ物をちょっとずつ取り入れる。いい意味での“中途半端エシカル”(笑)。そういう人が全体的に増えればいい」。無理をせずに楽しみながらファッションに取り入れていけばいい、と岡田さんは考えています。

そんな「INHEELS」のアイテムは、主にネパールのフェアトレード工場で、熟練の職人たちによってつくられています。

写真 : 現地での打ち合わせや買い付けの様子。現在店頭にも並んでいるニットのトップスは、現地の職人さんが数名で手編みで進めたもの。「つくる人の手の大きさによってサイズが変わってしまうので、一定の大きさに統一するのが難しいそうです」。(ネパール写真:Miki Yamato Photography)

写真 : ネパールで見つけた、何とも味わいのある手型のボタンを加工してブローチに。「赤いマニキュアは私が塗りました(笑)」。

写真 : ネパールを訪れた様子は同行したカメラマンが写真と共に動画も撮影。「動画のBGMは詩の朗読にしようと、日本人スタッフで簡単な詩をつくったんです」。その詩を友人に頼んでネパール語に訳してもらったときのネパール語のメモ。

有効活用するアイデアを生み出す仕事

「今回のEDiTカバーは、デニムとオーストリッチレザーと羽根という素材の組み合わせがすごくおもしろいと思っています。思い入れのある素材が、ひとつの手帳カバーにまとまったのがうれしくて」。このカバーももちろん、ネパールの工場で丁寧にひとつ一つ縫われています。

アクセントになっているのは、オーストリッチレザーとやわらかな羽根。国内でダチョウ食を推進するメーカーから、飼育・加工の際に出る革と羽根があると話を聞いていたそう。「飼育しているのは食肉用なので、若くてハリがある羽根が副産物として多く残ります。何かに使えないかと考えていた時に、ちょうど手帳カバーの話をタイミングよくいただいたんです」。

自分たちの場所ができた“1号店”

新店舗は、3つのブランドで共有しているスペース。現在ギャラリーとしている一角は、これからカフェに変身する予定だそう。「洋服屋さんというよりも、コミュニティースペースにしていきたいと考えています。まじめな勉強会からパーティーまで実験的にいろいろやってみたい」。

ブランドのファンには、「ソーシャルビジネスをしたいけれど何からやればいいのかわからない」という若者も多いそう。その姿は、かつての岡田さん自身と重なります。

「就職活動で悩んでいるときに、私のように好き勝手やってる人だと参考になるみたいです(笑)。日頃の思いなどをぶっちゃける人でいたほうが、私も楽だし存在も際立つ。ありのままでいる、それがINHEELSの感じにも合っているんじゃないかな」。

WEBのブログや連載に加え、新しい発信の場を手に入れた岡田さん。ますます新鮮なエシカルファッションを発表し続けてくれることでしょう。

※ こちらの商品は販売終了となっております。ご了承ください

Profile

INHEELS
岡田有加 Yuka Okada

大学卒業後、外資会計事務所系コンサルティングファームにてM&Aコンサルタントとして勤務。退職後に渡英し、ロンドンにてフェアトレードファッションに携わる。2012年よりエシカルファッションブランド「INHEELS」を立ち上げ。「Be inspired!」や「繊研新聞」などで執筆中。
http://jp.inheels-ef.com