「壁」の質感をまとった作品
その革は、持つ人とともに時を重ねる

白で統一されたアトリエに佇むのはバッグブランド「カガリユウスケ」のデザイナー、明松佑介さん。彼の代表的な作品「ウォール」シリーズは、まさに壁のような質感を持ち唯一無二の存在感を放ちます。制作現場を訪ね、普段の作品や制作した手帳カバーに込めた思いを伺いました。

TEXT:阿部康子 PHOTO:高見知香 

「持ち歩く壁」と呼ばれる作品の数々

真っ白な革に線を引き、カッターを滑らせて型を取る。ミシンに向かってたった数十分で一枚の革が立体に。明松さんが生み出す作品は、革をベースにしたバッグやコインケース、ブックカバーなど。まるで外壁のようなザラザラとした質感や、何十年も経ったかのような味わいをまとったバッグの表情が、手にする人の心を掴んで離しません。

写真 : 左はひとつひとつ朽ちた風合いを描いていく「都市型迷彩」シリーズのクラッチ。右と中央のバッグは同じ白でも、ゆるやかな曲線と力強い直線でまったく違う表情を見せる。

もともと服飾関係の学校に通っていたという明松さん。あるとき、服よりもバッグのようなファッションアクセサリーのほうが、身につける人との間にほどよい距離や自由度があると感じ、バッグ制作に打ち込むようになりました。

同時に、塗料がはがれかかった壁や、経年変化で色あせた壁など、何とも言えない味わいを持つ街中の一角に惹かれ続けていました。制作を続ける中で、四角いバッグと空間の立体構造に共通項を見い出し、「バッグを構成する一枚一枚のパーツは、空間の壁の役割と重なるのでは?」とひらめきます。空間を持ち歩く、つまり、『壁を持ち歩く』というコンセプトが誕生したのです。

写真 : 間近で眺めると、「壁」のように加工された表面の質感がよくわかる。絶妙なムラや手ざわりは、明松さんが日々試行錯誤を重ねた証。

そうして、革に建築用のパテを塗り重ねる工夫を重ね、白壁のような質感が誕生。白壁だけではなく、わざとより退廃し朽ちたようなあしらいを全体にほどこした「都市型迷彩」シリーズも発表し人気を集めています。

使い込むほどに表面にはひび割れが生まれ、その人ならではの色に変わっていく「カガリユウスケ」の作品。革がやわらかくなり手になじんでいく感覚も多くの人を虜にしています。

大切な道具を携えて、革と対峙する

明松さん独特の手法は、1.2mmの牛革に、刷毛やローラーを駆使してパテを塗り重ねて壁の質感をつくること。パテを塗ると厚いところは2mmほどになるという革を、さまざまな道具を駆使して加工していきます。立体に仕上げていく革用ミシンは、10年以上も使い込んだ「セイコー」のもの。今でも現役で、作品づくりに欠かせない相棒です。

「道具の中では、ハサミも重要。アトリエに近い人形町にある刃物屋『うぶけや』さんは、切れ味よく研いでくれるので、ハサミ類の手入れでとてもお世話になっている老舗です」。大切な道具を腕に信頼をおける職人さんに依頼するのは、ものづくりにおいての楽しみと語る明松さん。毎日の作業を終えた後、自身でもそれぞれの道具の手入れを欠かしません。

決して高い価格の道具がいいというわけではなく、自分の作業と自分の手にしっくりと馴染むかどうかが、道具を選ぶ基準だと教えてくれました。

どこを見ても真っ白な明松さんのアトリエは、まるで研究室のような雰囲気です。「元々ギャラリーだった場所なので、壁全体が白かったんですよ。」作品の撮影もアトリエで行っていたことから、光の反射が良いというメリットも。また、作品の白い革に道具などがぶつかって色移りしないようにという理由で、ミシンのランプや椅子なども自分で白く塗り変えたそう。

写真左上から時計まわりに:
左上 : 愛用している白鳥型の重しは、都内の骨董店で手に入れたお気に入り / 右上 : 主に建築美術に関する本が並ぶ一角。イスラム世界の関連本は文様を参考にしているそう / 右下 : メジャーもご覧の通り真っ白に塗られていた

アトリエには、「都市型迷彩」シリーズなどの色づけを行うための別室があり、マスク姿の明松さんがひと筆ずつ、革に細工をしていく工程が進められています。「模様を狙って描いているわけではなく、塗料を筆で置いたあとは自然に生まれる模様を生かします」。ひとつとして同じ模様がないのが、明松さんの作品の魅力です。

大切な手帳を守るカバー

「今回の手帳カバーの制作は、これまでにブックカバーをつくっていたこともありスムーズに仕上がりました。カードを入れられるポケットが付いています。ブランドの刻印も一つひとつ手押しで入れていますよ」。

ブランドロゴは、自身がブランドをはじめる前からあたためていたデザイン。気に入っていたアニメに登場するロゴマークからインスピレーションを受け、抽象的なデザインを自身で考えていたといいます。ペロリと舌を出したような印象的なロゴが、今回の手帳カバーにも印されています。

「カガリユウスケ」のカバーは、潔いほど真っ白でシンプル。だからこそ、ざらりとしたまだ新しい「壁」の質感がじっくりと味わえます。そして、革のほどよい厚み、丈夫さが大切な予定を書き込む手帳をしっかりと守ってくれます。1年後には、驚くほどに味わい深く変化したカバーに変身しているはず。使い続けるほど、世界にひとつしかない自分だけのカバーになります。

ものづくりをして生きていくこと

明松さんの父親は、和紙アーティストの明松政二さん。幼い頃から、一番身近に、ものづくりを体現している“作家の先輩”がいました。

「父親の活動を見てきたからこそ、自分でものづくりをして生きていくことは当たり前のような感覚でした」と語る明松さん。バッグをつくりはじめて10年以上、思い描いていた「壁」の質感を、革の上に生み出し続けてきました。

予定を書き込み、日記のようにメモを書き綴っていく手帳とともに「カガリユウスケ」のカバーも日々を重ねていきます。毎日の自分自身の変化を時とともに刻んでくれる存在は、ふと味わいが増したカバーを見た時に、たくさんの記憶を蘇らせてくれる存在になるかもしれません。

手帳 : 手前が真新しい今回の「EDiTカバー」で、奥が使用して1年が経過したブックカバー。並べてみると、使い込まれて味わい深く変化しているのがわかる。

「来年は展示会も予定していて、今また新しい表現ができないかと研究を重ねているところです。楽しみにしていてください」。真っ白な空間で、まるで化学研究者のような佇まいの明松さんは、やわらかな笑顔でそう語ってくれました。

「カガリユウスケ」のカバー販売は終了しました。ご了承ください。

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カガリユウスケ
明松佑介 Yusuke Kagari

バッグブランド「カガリユウスケ」デザイナー。服飾の専門学校を経て、大阪から東京へ活動拠点を移しバッグ制作に打ち込む。2005年、自身のブランド「カガリユウスケ」を立ち上げ、「持ち歩く壁」をテーマにバッグや小物などの作品を展開してきた。ユニークな質感の革製のバッグは国内に限らずアジアでも人気が高い。
http://www.yusukekagari.com