デザイン性と機能性を兼ね備えた
広告資材のよさを引き出して

東京・蒲田にあるショップ兼アトリエ「Semi Flagship Store Tokyo」を拠点に活動するクリエイティブ集団「蝉 semi」。消費サイクルの早い現代で、"デザインの寿命を長くする"という理念を掲げながら、広告として使い終わった資材を再利用したプロダクト製作で注目を集めています。オーナー・石川大輔さんに伺った創作活動やこだわりのプロダクトについてお届けします。

TEXT : 中村克子 PHOTO : 高見知香 

理念を象徴したブランド名

住宅街の一角にある「Semi Flagship Store Tokyo」に一歩、足を踏み入れると色鮮やかでデザイン性の高い広告資材を使ったバッグや小物がずらりと並んでいました。最初に、なぜ「蝉 semi」というブランド名を付けたのか? その興味深い由来について石川さんに伺いました。

「“デザインの寿命を長くする”という僕たちの理念に対して、短命な生き物の名前を象徴的につけました。蝉の一生と広告の成り立ちが似ていると思ったんですよ。蝉は何年もかけて幼虫から成虫になり、一週間ほどで一生を終えてしまいます。広告もデザインやコピーなど、できあがるまでの制作時間は長いですが、展示する期間は限られています。蝉の一生と広告の制作を重ねて考えました。また、海外の人に向けて漢字はインパクトがありますし、ローマ字の読みをつけることで覚えやすくしました」。

ロゴマークは、文字の周りにつけた矢印で循環していることを表現。バッグのディスプレイは、形の美しさを保つためバーで吊るすのが基本

六本木の街づくりからはじまった活動

「蝉 semi」を立ち上げたきっかけは、2010年に六本木商店街振興組合主催で開かれた「フラッグデザインコンテスト」の企画に関わったことだそうです。今も続くこのコンテストには“夜の街”というイメージが強い六本木を“アートやデザイン、クリエイティブなどをキーワードとして独創性の高い街に変えていこう”という目的があります。毎年のテーマをもとに、一般公募で集まったデザインをフラッグとして街路灯に飾っています。

「当時、僕は大学院に通っていて仲間とともに、六本木の街づくりのために何か企画を提案できないかと考えました。いくつか企画を立てましたが、予算の都合もあり実現が難しかったんです。そんなとき、組合の事務所に使い終わったフラッグの在庫がたくさんあったことに気づいたんですよ。そこで、これを使って何か製作したら面白いと思いました」。

その後、石川さんたちは使い終わった広告資材を再利用したバッグや小物を中心としたプロダクト製作をスタートしました。「なぜバッグをつくったかというと、まず多くの人が使うアイテムであるということ。それにバッグは外出する時に持っていきますよね。“街にあったものを形を変えて街に戻す”という循環をイメージしたときに、バッグが適していると思いました」。

リサイクル素材を極限まで有効利用した製作

プロダクト製作は石川さんを中心とした仲間とともに一点一点、手づくりです。「工場へまとめて製作を依頼する方法もありますが、広告を使い、一つひとつのパーツの色や柄の出方が違うので、使う糸の色ひとつにしてもブランドとしてのこだわりがあります。それをすべて指示するのは、現実的に難しいと思っています」。

滑りやすい素材を裁断するときは水の入ったペットボトルを重石に。これも再利用のひとつ

「広告資材はサイズが大きなものもあるため、使いやすい大きさに裁断する作業が必要になりますが、とても労力がいります。その後、裁断した生地を巻いてストックしておきますが、生地自体が重いので巻く作業も重労働です。腰痛に注意していますね(笑)」。

型紙を使って裁断する際は、なるべく無駄な部分を出さないように心がけているという石川さん。「バッグなどのある程度の大きさが必要な場合は、端から順番に裁断します。裁断したパーツを組み合わせる際にデザインのバランスを考えて、特徴を出していきます」。また、端切れが出た場合は小物に使うのはもちろんのこと、細かな切れ端もタグや紐に利用するなど、最低限のゴミしか出さないように工夫しているそうです。

写真左から時計回りに:
左上 : 芸術性の高い写真を一面に掲載した広告資材。巻くのも大切な作業 / 右上:六本木の「フラッグデザインコンテスト」の個性的なフラッグ / 右下:細かい切れ端を使ったタグと紐

使い込んで質感も楽しめるプロダクト

広告生地は屋外に掲示されることが多いため、テントでよく使うターポリンと呼ばれる素材やポリエステルなどがメインで、耐久性や撥水性に優れています。「材質によりますが、使っていると少しやわらかくなってくる素材もあります。使い込むほどに風合いが増すので、デザインとともに質感の変化が楽しめます。ときにはキズがついたり、すれてしまうこともありますが、それが気になる場合は修理することで長く使うことができます。今後はアフターサービスの体制も整えていきたいと思っています」。

肩にかける、手で持つという2つの使い方ができる「2 Ways Tote」。「蝉 semi」のサイトでは石川さん自らモデルになることもあるそう

左上:ベーシックな形ながらグラフィカルな柄や色が目をひく「Square Briefcase」/ 右上:荷物がたっぷりと入る「Basic Tote Large」/ 右下:バッグ内部のポケットには広告のロゴ部分などを使ってアクセントに / 左下:生地を折り紙のように畳んだユニークな形のカードケース「Origami Card Case」

機能を分けてできるだけシンプルに

今回のコラボレーションは手帳カバーのみならず、カードケース、クラッチバッグの3点セット。「できるだけシンプルにつくりたいと思っていました。ふだん、製作しているバッグもポケットがひとつだけのものもありますし、ポーチと組み合わせて使ってもらうようにしているので、そのアイデアをベースにした3点セットにしました。機能、つまり役割をそれぞれのアイテムに分けて、それをひとつにまとめるという形です」。

素材は、六本木の「フラッグデザインコンテスト」のフラッグを使用。ユニークなデザインが多いのが特徴です。「1枚の生地から3つのアイテムをつくります。明るい色づかいでポップなデザインもあれば、がらりとイメージの違うデザインもあります。使う素材はそれぞれ違うので、全て一点ものになります」。また素材自体は両面印刷されているので、裏面も楽しめるそうです。「シンプルな手帳カバーを探している人に、ぜひ気に入ってもらえるとうれしいですね」。

写真左:手帳カバーの袖部分にはさりげなく「蝉 semi」のロゴが刻印されている / 右上:手帳カバーとカードケースをクラッチバッグに入れて / 右下:クラッチバックにはハンドルがついており、しっかりと携帯できる

地域での活動、そしてプロダクトの幅を広げる 

「蝉 semi」が拠点としている蒲田は町工場の多いエリアであり、ものづくりが盛んな場所として知られています。第2の製作基地としても利用している近隣の「カマタ_ブリッヂ」は工房が併設されたシェアオフィス。「カマタ_ブリッヂでは工房で家具をつくったり、地元の人向けにものづくり教室を開催するなど、地域のハブとなるような活動をしています。今後、カマタ_ブリッヂとも協力しながら、ものづくりの街としての蒲田を盛り上げていきたいと思っています」と石川さんは力を込めます。

写真上:「カマタ_ブリッジ」の工房ではデジタル・ファブリケーションの機械を設置 / 左下:レーザーカッターで「蝉 semi」のロゴを焼きつける / 右下:同じくレーザーカッターで生地を切り抜いてカードケースを製作

最後に今後の抱負を伺うと、「蝉semiのプロダクトを積極的に海外に広めていきたいと思っています。またプロダクトにテクノロジーを加えて、新しい機能を持たせるのも面白いと考えています。たとえば夜、自転車に乗る場合にバッグにLEDを使って光で方向を示すような機能をつけるなど、プロダクトの可能性を広げていきたいですね」と近い将来の構想について語ってくれました。

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蝉 semi
石川大輔 Daisuke Ishikawa

クリエイティブ集団「蝉 semi」オーナー。展示期間を終えたフラッグや屋外広告などの資材を素材の強みである耐久性を最大限に活かして、バッグや小物などに作り変えてプロダクトを製作。一つひとつ手づくりの商品は、シンプルな形ながら切り取ったデザインによって個性的な表情を持つ。
http://semi.tv