手製本への誇りと愛情とともに完成した美篶堂による「大人のライフログ用ノート」

手製本への誇りと愛情とともに完成した
美篶堂による「大人のライフログ用ノート」

自分を見つめなおし、未来を考えるためのコンテンツが充実した40代からのエンディングノート、『大人のライフログ用ノート』。「一生使うノートだから、人の手のぬくもりがあるもの、長期保存ができるしっかりとしたつくりのものを」との思いから、手製本で知られる長野の美篶堂によるハードカバーが生まれました。

今回は、その大人のライフログ用ノートが製本されている様子を見届けに、夏が終わりにさしかかる長野県伊那市へ。そこでは上島明子社長、上島真一工場長、小泉翔副工場長があたたかく迎えてくださいました。

PHOTO : 高見知香

豊かな自然と澄んだ空気の中で

「美篶堂(みすずどう)」というきれいな響き。凛とした美しい佇まいの美篶堂の本やクラフト製品にぴったりな名前の由来は、工場のあるこの長野県伊那市美篶という地名からです。

製本職人の上島松男親方がそれまで勤めていた製本会社から独立して美篶堂を創業したのは1983年のこと。松男親方の祖父母が暮らし、東京生まれの親方自身が戦時中に疎開した故郷でもあるという縁から、およそ30年前、この地に新たに工場を構えました。美篶の篶は、すずたけ(篠竹)の異名であり、伊那市は長野県の伝統工芸品に指定されている信州竹細工の産地としても知られています。また信濃の枕詞として「みすず刈る信濃の~」と万葉集にもうたわれているそうです。

山を背景に従える、美篶のバス停

東京から電車を乗り継いで4時間近く。そこには見渡すかぎりのアルプスの稜線、青い空と白い雲、そして稲穂がこうべを垂れた田んぼの上をトンボたちが楽しそうに飛び回る風景が広がっていました。

さわやかな澄んだ空気と「こんにちは!」と声をかけてくれながらすれ違う小学生たちが心を和ませてくれるそんな穏やかな土地で、数々のデザイナーやクリエイターが頼りにし、手製本を愛する人たちが憧れる美篶堂の本や製品は生まれているのです。

美篶堂伊那工場周辺の様子、田園風景

静かな工場の中で、黙々とリズミカルに

昔ながらの手製本の技術、そして60年におよぶ製本業でさまざまなリクエストに応えながら松男親方が開発したテクニックを活かし、特装本などの書籍をはじめ、紙を使ったアートクラフトや文具などをつくっている美篶堂。その工場の中は、手を動かす小さな音がささやくように響くだけで、とても静か。それぞれが自分の持ち場で、黙々とリズミカルに作業を進めています。

親方の甥にあたり、その技術を継承する上島真一工場長をはじめ、みなさんの頭には本の柄が描かれた美篶堂オリジナルの手ぬぐいがキュッと巻かれていて、そんなところからも製本に対する誇りと愛情を感じます。

天井が高く、小学校の体育館ほどの広々とした工場

天井が高く、小学校の体育館ほどの広々とした工場

大人のライフログ用ノートの製本作業真っ盛り

大人のライフログ用ノートの製本作業真っ盛り

丁寧で正確、スピーディーな手の動き

今回の大人のライフログ用ノートは「角背上製本」。美篶堂が最も得意とする形状です。美篶堂では本文の断裁、製本からおこなうこともありますが、今回はすでに別の印刷製本工場で仕上げられた本文を表紙に巻き、商品として完成させる作業を美篶堂でおこないました。

一つひとつの工程での真一工場長のすばやい動きは、カメラのシャッターを切るのが間に合わないほど。それでいてとても丁寧で正確。根気と忍耐なしに成し得ない30年の熟練の積み重ねのなせる技にうなるほどです。

美篶堂製「大人のライフログ用ノート」製本の工程

①「LIFELOG」の金箔がほどこされ、厚紙に巻かれた状態の表紙が協力会社より到着
② カバーの背の溝部分に糊を塗り、本文と合わせるための準備をしておきます
③ 本体の背の天と地の両端に付ける「花布(はなぎれ)」を付けるために糊を付けて下準備
④ 花布は元々補強を目的としていましたが、現在では装飾の意味合いが強くなっているようです。無駄のない動きで、あっという間に約6mmの花布をひとつずつ付けていく真一工場長の技にびっくりです

美篶堂製「大人のライフログ用ノート」製本の工程続き

⑤ ⑥ 表紙を90度に開き、本文と見返し(本文と表紙をつなぐための少し厚めの紙)にムラなく糊を塗っていきます
⑦ 本文と見返しを接着させます
⑧ しわが出るのを防ぐため、閉じた状態でさらにプレス機にかけて平らにします。全体重を乗せる真一工場長の姿が印象的です

 製本が終わり、重石を乗せて表紙と本文をさらに定着させているノート

⑨ 製本し終わったノートは、重石を乗せて表紙と本文をさらに定着させます

大人のライフログ用ノートは、まさに自分史

美篶堂では午後3時になると、みなさんが持ち寄った甘いお菓子とお漬物が並ぶおやつ休憩があります。作業の手を止めたこの時間に明子社長と真一工場長にお話をお伺いしました。

「美篶のよさは、空気が本当においしくて、春には桜の香り、そして秋にはお米の匂いがすること。この辺りは冬に雪がそれほど降らないけれど、山にはしっかり雨が降り、水不足にならないのもいいですね。それに年間通して湿度が安定しているので、つくったハードカバーが反らなくていいのが私たちにとっては何より(笑)。東京にいたときは、反り問題には苦労しましたから……」と明子社長が話せば、「ここ、伊那工場のスタッフはみんな手先が器用です。田畑を耕し、冬は竹細工など細かいものの手仕事をする……そうやって昔からずっと暮らしてきた土地だからかな」と真一工場長が続けます。

この日のために時間を割いて、東京から伊那工場へ駆けつけてくれた明子社長

この日のために時間を割いて、東京から伊那工場へ駆けつけてくれた明子社長

普段は無口という真一工場長は、製本のことになると話に熱を帯びる

普段は無口という真一工場長は、製本のことになると話に熱を帯びる

手製本の作業の中での喜びは? と問うと「やはり、無事に完成したときですね。依頼をしてくれるデザイナーや作家よりも、先にプロダクトになったところを見られて、ときめきを感じることができる」。真一工場長と明子社長は揃ってほほえみます。

左から美篶堂の小泉翔副工場長、上島明子社長、上島真一工場長

和やかな雰囲気がチームワークのよさを物語る

「大人のライフログ用ノートは、まさに自分史。こうして上製本にしてあることで、“自分の本”、として感じることができると思うし、私自身も使ってみようと思っています」と明子さん。この言葉がそのまま今回の美篶堂製ハードカバーのコンセプトを伝えてくれています。

手製本の技術を活かしたオリジナル商品

紙の厚みがあったり、抜き型があったり、機械でつくることが難しい特殊な仕様の本をつくることが得意な美篶堂。松男親方が製本した本を集めた個展も開かれたほど、デザイナーのアイデアやこだわりが形になったその陰には、親方や工場長をはじめとした美篶堂のみなさんの努力や技術があります。そんな美篶堂では、数十あるという製本様式の技術やアイデアを活かし、美篶堂ならではの品質が高いオリジナル商品もつくっています。

小泉副工場長がつくるのは経本の製本テクニックを使った「アコーディオンアルバム」

小泉副工場長がつくるのは経本の製本テクニックを使った「アコーディオンアルバム」

美篶堂のオリジナル商品

写真左上から時計回りに : 上写真で小泉副工場長が製作している「アコーディオンアルバム」の色違い / 松男親方がつくる断裁アートをヒントに生まれた「虹色ブロックメモ」 / 詩人・谷川俊太郎さんの一編が活版で印刷された「コトノハノート」 / 小さな本のようにしっかりと開く「豆本カードスタンド」

「虹色ブロックメモ」のヒントになった松男親方が紙の端材でつくった作品のひとつ

「虹色ブロックメモ」のヒントになった松男親方が紙の端材でつくった作品のひとつ。その発想と技術は簡単に真似できるものではない

手製本の技術と文化を伝える本づくり学校やイベント

創業者、松男親方の娘である明子社長は、紙の専門商社・竹尾の見本帖(東京・神保町)にある美篶堂のインショップで依頼者と工場をつなぐ仕事をしながら、美術大学等でも手製本を教えているほか、本づくり協会、本づくり学校を立ち上げ、各分野のプロフェッショナルとともに、知識や技術、伝統や文化を伝えています。「本の修理をしたい図書館司書の方、自分史や自作の句集を製本したい方、デザイナーさんなど、さまざまな方がいらしていますよ」。

そのほか、美篶の隣町の高遠町でおこなわれる「高遠ブックフェスティバル」に参加したり、一般の人が工場を訪れワークショップに参加できる「美篶堂まつり」を開いたりするなど、手製本をもっと身近に感じるための活動やSNSによる情報発信をアクティブにおこなっています。

美篶堂の著書『美篶堂とつくる美しい手製本』と製本作業に欠かせない真一工場長の愛用の道具

写真左 : 美篶堂の著書『美篶堂とつくる美しい手製本』(河出書房新社)と美篶堂が製本した『Mの辞典』(望月通陽・著 / ゆめある舎)/ 右 : 竹の指輪、刷毛や折りべらなど、製本作業に欠かせない真一工場長の愛用の道具

仕上がった大人のライフログ用ノートを手に美篶堂のみなさんで

仕上がった大人のライフログ用ノートを手に美篶堂のみなさんで

企画者、編集者、デザイナー、印刷会社、美篶堂 ……たくさんの人の手により、やっと1冊に仕上がった大人のライフログ用ノート。美篶堂の熟練した職人たちの確かな腕によりできあがる様子を見ながら、製本とは技術であり、そして文化であると改めて感じ、また製本への誇りと愛情とともに完成したこのノートは、そこに書きこむ人の未来を幸せへと導いてくれる気がしました。

「大人のライフログ用ノート」の詳細はこちらから>

美篶堂の伊那工場前で、上島明子社長と上島真一工場長
美篶堂 Misuzudo

製本職人、上島松男により1983年、創業。長野県伊那市美篶にある工房で製本作業を行い、高い技術と豊かな発想力で、作家やデザイナーから厚い支持を集めている。また、本づくり協会の運営、ワークショップの開催、著書の出版など、本づくりの魅力を伝える活動にも力を注ぎ、著書に『美篶堂とつくる はじめての手製本』、『美篶堂とはじめる 本の修理と仕立て直し』(共に河出書房新社)などがある。

web : www.misuzudo-b.com
Twitter : @misuzudo_binder
Instagram : @kotonohamotute
本づくり協会・本づくり学校 : www.honzukuri.org